"楽しい研究"をするために考えたこと ~大きなビジョンとワクワクの根源~

※この記事で書いている内容は、完全に私の主観で、私が楽しい研究するための考えを可視化、言語化して整理したものです。そして、わかってる人からすると当たり前のことを書いているかもしれません。

目次

1. 問題提起

 「憧れを憧れのままにするな」
 最近、憧れの研究者からやあるアーティストのラジオの中から、言葉は違えど同じような内容を耳にして、胸に刺さるものがありました。なので、私自身が誰かの憧れの研究者になるために、自身の現状を客観的に把握し、現状と理想のギャップを埋めていくための整理をメモしておこうと思います。
 まず私自身が憧れの研究者のどの部分に憧れているかを考えました。私のあこがれの研究者は、どういう未来が来るのか、その未来で自分がどうなりたいかのビジョンを楽しそうに話してくれます。その楽しそうに研究をしている姿に憧れを感じていました。ではなぜ楽しそうなのか。その理由の一つが、ワクワクするような大きなビジョンを持つことが肝なのかもしれないと思い、思考を進めることにしました。

2. 思考の過程

2.1 これまでの自分のビジョンの作り方

 博士課程の私の研究は、以下の図のような進め方であったように思います。大きなビジョンを描くというよりかは、共感した他の研究者のビジョン(先行研究)を参考に、まだやられていない内容をいくつか取り上げて、一つ一つその内容を実験し、学会や論文で発表してきました。もちろんその一つ一つの内容は、それぞれ大なり小なり新規性が存在します。ところが、博士論文をまとめる段階で考えることになったのが、ビジョンです。それぞれ一つ一つに新規性が存在しているとはいえ、それをまとめて終わりではなく、それら全体がどういった意味を持ち、学術の世界や未来のためにどのように貢献できるのかを1つのビジョンとしてまとめあげる必要がありました。これが初めて描いたビジョンであり、やりきった一つの自信にはなっています。
 ただ、そのビジョンは誰かのビジョンという山からスタートして、それにコブをつけたようなビジョンではないかという気持ちが拭えずにいるのも確かでした。誰かの二番煎じ感、2流感、小さな山感など色々な表現ができるかもしれませんが、その小さなコブをナデナデしているだけではだめだなと思ったのです。そこで、ワクワクする大きなビジョンを描いてみたいという思考に至りました。

 ちなみに私の専門分野は、材料工学で熱電変換材料というエネルギー材料を研究していました。特に、Al(アルミニウム)をベースとした合金に注目して、新しい熱電変換材料を探索し、実験、計算の両面から有効性を検証するような研究でした。実際にいくつか新しい材料を提案できたため、その材料ごとに新規性は少なからず存在するので、それぞれで論文を書きました。しかし、それらをまとめるだけの博士論文ではなく、なぜAl系合金で新しい熱電変換材料が見つかったのかを、電気陰性度という基礎物性から説明し、探索指針を提案する形でまとめ、これから新しいAl系熱電変換材料が発見されるビジョンを描きました。

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課題先行ビジョン後付型

2.2 ビジョンの存在意義

 そこで、ワクワクする大きなビジョン先行して考えることにしました。幸い、私の所属するさくらインターネット研究所では、ちょうど研究所全体のビジョン(超個体型データセンターを目指す当研究所のビジョン – さくらインターネット研究所)を考えるタイミングでもありましたので、自分自身のワクワクするビジョンを探しました。そして、まだなんとなくではありますが、ワクワクするビジョンのようなものを定義しました。
 次に、そのビジョンを実現させるためのマイルストーンとして、どのように細かい研究課題に落とし込んでいくかを考えていくことにしましたが、それが間違いであったように思います。つまり、ビジョンから逆算的にすべき課題を考えてしまったところが問題だと感じています。ビジョン自体は、そもそも実現までの時間的距離も遠いものですし、実現可能かどうかはともかくワクワクするものです。それなのに、ビジョンから研究課題を逆算してしまうと、そこいくまでの道は自分の分野だけで絞ってもとてつもなく多く(見えてしまう)、それぞれが太く(複数を並行して進めるほど優しい道ではない)思えました。課題が山積みだとしが見えてこなくなってしまいました。また、実現可能性を明確にしていくことでどこかワクワクが減少してしまうような気もしました。
 つまりビジョンは、逆算して自分自身の研究計画を綿密に立てためのものではないということを学びました。ビジョンは、自分自身のモチベーションを保つためのものであると同時に、共感してくれる人を集めるためのものであり、一人で解決することではそもそもないということを改めて感じました。なので、ビジョンはそのままワクワクした状態で置いておいておくだけでいいんですね。つまり、描くべきビジョンは現状から遠くて且つ自分にとって煌々と輝いているもの(遠いし、眩しくて正確な距離や場所が分からないもの)が良いのかもしれません。そして、より多くの人と共感することが大事だと仮定するのであれば、ビジョンはより多くの分野の人が引っかかるワードを選ぶべきなのかもしれませんね。

 私の場合、材料系研究者から情報系研究者になったこともあり、それを活かしたビジョンを考えています(まだだと状態)。現段階で考えているビジョンは、原子内に存在する電子と原子核との関係性や分子内の原子同士の関係性、その関係性を作り出す引力と斥力のバランス、そういったモデルを今でいうエッジコンピューティングの仕組みに取り入れることで、原子や分子がそれぞれの単位で安定的に自己組織化し、様々な機能を示す材料となるような超個体的コンピューティングの実現化です。ただし、実際に具体的な実現化を考えると現在存在するコンピューティングに関する理解、通信やネットワークの理解など学習やサーベイすべきことが数多く見えてきます。また、アナロジー的アプローチとしては群知能などすでに多くの研究がなされており、そちらもサーベイする必要があるかもしれません。

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ビジョン先行天下り課題設定型

2.3 ビジョンと並んで大事なこと

 「ビジョンは大事」そう考えている中で、ビジョンと並んで大事なものがあるような気がしてきました。それは、自分自身のワクワクの根源を見つけることです。その根源が見つかれば、それに従った面白い研究課題にその都度立ち向かうだけでいいんじゃないかという気がしてきました。言い換えると、自分自身の主成分分析をして、最も自分を表す特徴ベクトル(固有値が最大となる固有ベクトル)を探し出し、そのベクトルの方向だけを大事にして、自分がワクワクするビジョンと大体の方向だけを合わせるだけで十分なのではないかということです。
 もちろんその都度見つけた面白い研究課題に対してのストーリーやそれに従った細かなマイルストーンを設定することは大事で、それぞれの小さなビジョンを掲げ、達成していくことも大事だと思っています。それは博士課程でやっていたことと大差ないようにも思えます。ただ、研究を進めていく中でその研究課題の大きさ(実現可能までの時間)が大きくなっていくはずです(むしろ、そうなって欲しい)。そして将来、自分のビジョンが当時思っていた場所と変わっている可能性があっても、それはそれでもいいんだろうなとも思っています。

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ワクワク由来ベクトル先行ビジョン抽象化型

まとめ

 憧れを憧れで終わらせないために、結果的にあたり前のことかもしれませんが、ワクワクする大きなビジョンを持ち、自分自身のワクワクの根源を知ることが大事だと確認することができました。
 私が現在考えているビジョンもまだまだ改良の余地があると認識しています。また、自分自身のワクワクの根源を見つける作業も、まだまだ完了できているわけではなく、もう少し掘り下げていかないとなと思っています。